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恒藤恭『旧友芥川龍之介』p20,21

尤も、すべての勝負事はきらひであつた。
「囲碁の趣味がわからなくては、漢詩、ことに五言絶句の味はひはわからないだらう」
 といふやうなことを私がいふと
「なあに、真の芸術家は勝負事はきらひなんだよ」
 と、幾人もその慣例をあげて、彼の主張の証明を試みた。何遍もその主張は聞かされた。だが、賭け事のあそびには興味をもち得たやうである。
 勝負事のきらひだつた彼の心理を解剖してみると、負かすこともあまり愉快ではないし、負けることは尚更愉快ではないという心持が、すぐ顔をのぞけるからであつたろう。

 彼は数学はすきだつたし、数学的能力ももつてゐたらしい。
 高等学校時代から彼は長い路筋をたどつて議論をすすめることは嫌ひであつた。
 感じや気分の上では、矛盾が大きらひであつたが、理論の上の矛盾はこれを犯して平気であつた。
 抽象的な概念で言ひあらはすと、芥川は理智の人ではなし、叡智の人であつた。

恒藤恭『旧友芥川龍之介』p20,21

恒藤恭『旧友芥川龍之介』p20,21 恒藤恭『旧友芥川龍之介』p20,21 Reviewed by 黒谷知也 on 12/04/2014 Rating: 5